全国チェーンの量販店や専門店、フランチャイズ店などにおされて、商店街の個人商店や飲食店は苦境に立たされている。
というのは一般論。
どんなことにも例外はあるもので、ご承知の通り「元気がいい商店街」というところも全国には少なからず存在する。
一方、マニュアル化されたチェーン店の接客応対には、コミュニケーション機能が希薄化してしまっているものが多くなってきている。たとえば・・・
役者の梅沢富美男さんがテレビで怒って ヽ(#`Д´)ノ おられるのを見たことがある。
ある日梅沢さんは、舞台のスタッフたちに差し入れをしようと一人で有名ハンバーガーショップに行き、ハンバーガーを100個注文した。40分ほど待たされた挙句、店員に「こちらでお召し上がりになりますか?」 ときかれたのだと。
「ギャル曽根か!」と突っ込みたくなるが、いかにもありそうな話で笑えない。
こんな話もある。こちらは遥(はるか)洋子さんのエッセイから。
京都で新幹線を降りて、うどん屋に入った。
女性店員に「天ぷらうどんください」と言った。
店員は、「うどんと、そばとありますが・・・」と言うので、もう一度言った。
「天ぷら“うどん”ください」
店員は答えた。
「では、うどんのほうでよろしいんですね?」
私はもう一度言った。
「ですから、天ぷら“うどん”ください」
「確認いたします・・・」
「しなくていいから、天ぷらうどんください」
しかし店員は確認した。
「天ぷらをうどんのほうで。おひとつでよろしいですね?」
私は言い方を変えた。
「天ぷらうどんを、うどんのほうで。私は一人ですから、ひとつください」
「わかりました」
うどん屋で、「天ぷらうどん」とひとこと言えば、うどんが出てくる時代は終わった。
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チェーン店では当然のごとく「接客マニュアル」を作成し、接客応対の質と精度を高めようとしている。
しかし、現場の働き手に「コミュニケーションの質と精度を高める」という意図はまったく伝わっていない。
おそらく「こういう場合にはこう言ってください」といった類の現場教育がなされており、その意義を理解した上で「双方向のコミュニケーションを成立させる」ための教育は行われていないのだろう。それができる店長やスーパーバイザーもいない可能性が高い。
マニュアルは顧客サービスというよりも、いらぬ勘違いやトラブルを避け店側の効率化に資するために存在するかのようである。
一方ある調査によると、商店街に期待する機能として「コミュニケーション機能」が高い順位にあることがわかった。しかも意外なことに、若年層の消費者でもこの結果は同様だったという。
100個のハンバーガーを「ここで食って行くか?」と尋ねられたり、天ぷらうどんの注文に対して「そばとうどん、どっちだ?」と問われることには、年齢に関係なく機械や別の生物と対面しているかのようなそら寒さを感じてしまうものなのだ。
世の中がそのようなチェーン店ばかりになってしまったら、そういう社会で育つ子供たちに正常な日本語会話力やコミュニケーション力が身に付くだろうか?
顧客一人一人と対面し、双方向の会話ができる商店街の個人商店や飲食店には、今なお本物のコミュニケーションが存在する。
商売のための会話だけではない一見無駄とも思えるやりとりが、顧客にとっての付加価値となりえる。
商店街のお店が子供たちへの社会教育・日本語教育の場、という機能を備えたとしたら、それを否定する地域住民はいないであろう。実際、商売とは関係のないコミュニケーションや相談ごとの対応を個店の機能として強化し、その結果来街客を増やし活力を保っている商店街が存在しているのである。
寄稿者:NPOちゅうおう経営支援 理事 大山祐史